もぐぶろぐ

本を読んだり、読まれたりしたことなどまとめます。あと地域・時事ネタもたまに。

「言葉」の根源的な力――言壺

今回紹介する本は「言壺」という日本のSF短編小説です。

 

短編集といっても、全く独立した短編集ではなく、キーワード的なものは繋がっています。


「言葉」もそうですが、例えば「ワーカム」と言った文章を「校正」する機械も繋がったもの、テーマになっています。

 

本作の中でも、1つめの短編の「綺文」について紹介したいと思います。

 

  

言壺 (ハヤカワ文庫JA)

言壺 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:神林長平
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫
 

  

物語は、何としてもワーカムに入力させたい以下の言葉から始まります。

 

「私を生んだのは姉だった。姉は私をかわいがってくれた。姉にとって私は大切な息子であり、ただ一人の弟だった」

 

何か読解力のテストのようですが、意味はそう難しくはありません。

 

子供を産んだものの、何らかの事情でそれを息子とは呼べず、歳も近いので弟とした、ということです。

 

余談①:若干ネタバレの余談ですが、この一文を読んだときに、NHKで昔放送していたBBC製作のドクター・フーを思い出しました。
(何話目かで似たようなシチュエーションのオチになる回があった筈)

 

さて、最終的に「ある文」で、ワーカムに入力出来るようになるのですが、同時に主人公を含めた世界の言語認識が一部、おかしくなってしまいます。

 

1984という小説では、ニュースピークという新しい言語の登場で、思想を統制したように、この世界ではニューラルネットワークに繋がった、ワーカムによって人々が支配されてしまっている構図が覗えます。

 

その他の短編もそうですが、言葉の持つ力、神秘性というものを感じることができ、かなり新鮮に読み進めることができました。。

 

余談②:また余談ですが、「閉じこもるインターネット」という本でも紹介されていましたが、Googleの検索結果もアルゴリズムによりカスタマイズされており、人によって表示結果が異なっていたりするそうです(※1)。
アルゴリズムがそれを決定づけているのでしょうけれども、そうやって変更を意識させずに、人々の意識、考えを変えるなんてのは、案外容易なのかもしれないな、と思えました。

 

※1:ちなみに、例として「BP」という企業があげられていたので、異なるブラウザやログインの有無で試してみましたが、表示結果に差異はありませんでした。(恐らくアルゴリズムが変更されたか、IPアドレスで個々人を見るようになっているのか、それすらも見透かされているのか……)

 

一九八四年 (ハヤカワepi文庫)

一九八四年 (ハヤカワepi文庫)